法務デューディリジェンス

現地法人のコンプライアンス管理上不可欠な「法務デューディリジェンス」(法務DD)

経緯

・A社は青島にある日系独資企業である。本社ではコンプライアンス管理上の必要から、現地法人の経営管理における内部統制及びコンプライアンス状況について弁護士に法務DDを委託し、詳細な報告と意見の提供を求めた。

・委託を受け、弊所弁護士チームがA社の具体的な業務範囲、組織構造等や今回の法務DDの目的に基づき、部署ごとに対応した内容の調査票を作成し、調査票をもとに管理職、担当者との面談及び外部情報の調査照会等を行う方式で、A社に対する全面調査を実施した。調査により、A社は全体的にコンプライアンス水準が高いことが確認されたが、一部でやや大きな問題や法的リスクも存在していることが明らかになった。

①印鑑の保管、使用の承認、追跡について合理的な制度が欠如している。

②賃金明細表中の名目と実際の支払項目が合致していない。

③契約書の原本の保管が適切でない。

案件の処理過程

(1)弁護士の見解

・中国の『契約法』等の関連法律規定では、文書には登録済の社印を捺印することで、会社の意志を反映し、会社に対し法的効力及びその結果を発生させます。社印が不当に使用されると、会社にとって非常に大きな脅威と法的リスクを構成することとなります。

・使用者が法により従業員に与えるべき待遇について、賃金明細中に明記していないと、従業員にこれを悪意で利用された場合、労働監察機関への通報又は労働仲裁の提起といった形で再度支給を求められるリスクがあります。

・契約書や関連する証拠の原本は、会社の最重要文書であり、適切に保管していないと、担当者が替わった場合等に紛失するリスクがきわめて高くなります。

(2)弁護士の対応

弁護士チームは関連の情報を調査・把握し、A社に存在する法的リスクを整理してまとめ、関連法令の規定及び実務経験に基づいて調査報告書を作成しました。調査報告書の中では、A社に存在する法的リスクの問題について1件ごとに専門的見地からの意見を提出しました。さらにA社との検討、面談を重ね、それぞれの問題についての具体的対応策を確定させました。

・印鑑の管理については、A社で厳格さのレベルが重要性に応じて異なる各印鑑の保管・使用承認制度を設けたうえ、印鑑に関する承認記録と捺印書類の写しを適切に保管することとしました。

・関連法令の規定及びA社の賃金体系を踏まえ、A社の賃金明細表の改善をサポートしました。改善前に存在していたリスクは、全従業員と補充労働協議を締結することにより、最低限に抑えられました。

・会社の契約書原本をまとめて保管し、専任の担当者に管理させることとし、契約に関する重要情報の統一と総合管理を行うように改善したことで、A社で契約中の案件履行状況を随時把握することがよりスムーズに出来るようになりました。

依頼者の満足ポイント

・会社の日常経営管理過程に存在する法的リスクを発見し、専門の弁護士チームが的確にリスクポイントに対する対応策を提示したことにより、会社の経営管理での法的リスクが大幅に低減されました。

・弁護士チームが会社現場で調査したことで、従業員にコンプライアンス上の緊張感を与え、本社、現地法人のコンプライアンス管理に対する考え方を強く印象づけることができました。

・日本人管理職や本社にとっても、現地法人の客観的状況や中国の関連法令、政策についてより深く把握するよいプロセスとなりました。

中国での類似の案件における問題点とアドバイス

日系現地企業においては、比較的コンプライアンスが重視されているうえ、大部分の日系現地法人においては、日本人による日常管理がきちんと行われているというのが、弊所が実務経験から受ける印象です。それでも、実際の経営管理の過程において、日本側管理職と中国人従業員との間で、互いの言語でのコミュニケーションが通じにくかったり、商習慣のずれがあったり、あるいは管理職(日本籍、中国籍とも)の関連法律・政策に対する理解不足、または、特定業務の担当者のコンプライアンス意識の欠如といった原因により、現地法人の経営管理の過程でのリスクが発生し、時には、違法行為となることすらあります。こうした状況について、弊所では以下のようにアドバイスしています。

・会社の日常経営管理についての定期的なコンプライアンス調査を専門家に依頼するとともに、専門家が指摘した問題点に対して有効な解決案やアドバイスの提示を受けるとよいでしょう。

・日常経営管理の過程において、管理職が問題点や疑問を抱えた場合には、直ちに専門家に問合わせたり相談して早期に解決し、違法リスクが顕在化するのを防ぐようにします。

・中堅の管理職や一般従業員向けのコンプライアンス研修を定期的に行って従業員の意識を高め、会社の広範な層でのリスク抑制・防止を図ります。

 

企業によって異なる様々な具体的事情により、存在する/しうるリスクも異なります。従業員の対応も千差万別であり、専門家が具体的状況を踏まえて分析・判断し、必要な対策を検討するとともに、事態の進展に応じてそれを随時調整していくことで、会社の目的を達成することができます。