古くからの懸案の解決

長年使用してきた土地が集団所有のものだった

経緯

・1995年、日本の食品メーカーが煙台市にA社を設立した。後にA社の赤字が続いたことと、本社がベトナムに新工場を設けたことで、本社ではA社を解散・清算することを決定した。

・A社は清算に入ると、ただちに資産の処分を開始したが、資産のうち最大のものは土地使用権であると思われたので、A社から土地等の資産処分を弁護士に依頼した。

・本社ではA社の土地使用権は国有土地使用権であり、国有土地使用権の手続きが繁雑なためにそれを行っていないだけだと認識してきたが、弁護士が本件に参与し、調査した結果、A社の使用してきた土地は国有土地ではなく、村民委員会の所有であったことが判明した。

案件対応の過程

(1)弁護士による調査
弁護士が本社との確認、調査を行ったところ、次のことが明らかになりました。
・A社の設立以来、当時の本社専務が地元煙台出身の中国籍従業員Bを非常に信頼しており、長く本社からはA社に生産技術者を派遣するのみで、日本側から総経理や副総経理を派遣してA社の日常経営管理を行うことは行っていませんでした。
・A社の日常経営管理は全てBが総経理として責任を負っていたが、日本で本社の専務が退職すると、BもA社を離職しました。
・Bが離職し、A社の土地の事情に詳しかった従業員も全て離職してしまったことにより、A社では土地についての過去の経緯を知る従業員がいなくなりました。
・A社の使用する土地の権利帰属を調べて明確にするため、弁護士が土地局、不動産登記センターに何度も出向いて調査し、村民委員会とも複数回話し合いをしたところ、最終的にA社の使用する土地は村民委員会のものであるという事実が確認されました。弁護士から村民委員会に確認した結果、A社の設立当時、BがA社の名義で村民委員会と「土地売買契約」を締結したが、日本の本社にはこれを報告していなかったということです。

(2)弁護士の見解『土地管理法』第63条の規定により、農民集団が所有する土地の使用権は、払下げや譲渡、賃貸により農業建設以外の用途に使用してはならないとされています。最高人民法院(最高裁判所)による類似の判例においても、『土地管理法』第63条に違反する契約が無効と認定されたものがあります。

本件について弁護士は、A社の土地使用は農業建設用途ではなく、A社と村民委員会が締結した「土地売買契約」は『土地管理法』第63条規定違反により無効なものと判断しました。

(3)弁護士の対応

弁護士は『土地管理法』第63条の規定に依拠して何度も村民委員会と交渉し、事態を拡大させて現地政府による処分を受けることは避けたいという村民委員会の意向にも基づき、最終的に村民委員会との合意を得て、土地を村民委員会に返還することとしました。村民委員会からはA社に土地の原状回復は要求されず、双方が互いに相手の責任を追及しないこととして本件を決着しました。

依頼者の満足ポイント

・弁護士の強力なサポートを受け、本社としては、無事に、コンプライアンス上問題なく、海外子会社の過去の複雑な経緯に根ざした土地の問題を解決することができました。

・清算過程での土地の使用権問題と言う重大な障害が解消され、A社の清算をスムーズかつスピーディに完了でき、海外子会社の撤退という目的が達成されました。

中国での類似の案件における問題点とアドバイス

『土地管理法』等の関連規定により、通常、外資系企業では国有土地使用権についてのみ売買及び使用することができ、集団土地※使用権については外資系企業による売買、使用は認められていません。

早期に中国進出した外資系企業にとり、土地の問題は確かに悩ましいものです。90年代、中国各地では積極的な外資誘致政策のもと、土地に関する法律や政策に執行上の混乱があり、法律意識の欠如等の要素もあり、多くの外資系企業で、中には中国人の経営陣でさえも、法律上外資系企業では国有土地しか使用を認められていないことを知らないうちに、実際に外資系企業が村民委員会から集団土地を購入してしまうということが起きていました。それにより、外資系企業では対価を支払って土地を購入したにもかかわらず、土地の性質が集団土地であるために、合法的な土地使用権を取得できない状況が発生しています。

今回、A社が使用していた土地について、国有土地使用権を取得するための法定の手続きを行わず、直接村民委員会と「土地売買契約」を締結していたことにより、A社が直接当該集団土地を処分して第三者に提供することはできず、村民委員会と交渉し、土地を返還するしかありません。ただ、Bと村民委員会の当時の書記はすでにいずれも煙台市を離れているため、いかにして土地を実際の当時の状況に原状回復するかと、村民委員会との土地処分の問題についての交渉が焦点でした。

集団土地を購入していた場合、まずは専門の中国弁護士に相談し、合法かつ積極的な対応を行うことをお勧めいたします。また、今後中国で土地使用権を取得する計画がある場合は、弁護士による調査等の手段により事前に土地の性質を把握し、対価は支払ったのに国有土地使用権が取得できないという事態は回避することが重要です。

※集団土地とは、主に農民集団の所有する土地をいい、中国では国有地以外の土地は全て集団土地であり、主に村や郷(鎮)の集団経済組織や村民委員会により経営、管理される。

 

案件によって事情は異なり、統一的な処理方式は存在しないため、専門家が具体的状況を踏まえて分析・判断し、必要な対策を検討するとともに、事態の進展に応じてそれを随時調整していくことで、会社の目的を実現することができます。